総入れ歯や部分入れ歯を使っている方は、入れ歯のガタつきや歯茎との摩擦による痛みに悩まされたことはありませんか?そこで多くの人が使っているのが、市販されている入れ歯安定剤です。近年、この入れ歯安定剤にアルコールが含まれていることが問題となっています。歯科医療従業者が解説する、入れ歯安定剤に関するコラムです。
テレビやインターネットのニュースで、「入れ歯安定剤が原因で飲酒運転に捕まった」という内容が話題となっていたのをご存知ですか?2015年3月に、運転の直前に入れ歯安定剤を使用して入れ歯を装着したという男性が、その後の検問にて呼気からアルコール反応が出たとして飲酒運転で免許停止などの罰則を受けていた問題です。
男性側は、もちろん飲酒などはしておらず、入れ歯安定剤に含まれているアルコール成分がアルコール反応の原因であると主張していました。しかし当初は、入れ歯安定剤の使用が呼気にアルコール成分を含ませてしまう可能性について警察側は認識しておらず、男性側の主張は通りませんでした。
約3年も前の事件にもかかわらず、今年に入ってこのニュースが話題に上がっているのは、今年の6月の高裁判決において男性側の主張が認められた為です。裁判所で男性側の主張が認められたということは、『入れ歯安定剤が原因で、飲酒運転に相当するアルコールが呼気から検出される可能性がある』ということが正式に認められたと言いかえることができるでしょう。
入れ歯安定剤を使用しており、なおかつ日常的に運転をする方は「飲酒していないのに、飲酒運転と言われてはたまらない」「これから運転する時は、入れ歯安定剤を使わない方が良いの?」と不安に思ったのではないでしょうか。
入れ歯安定剤の成分から、選び方・推奨される使用方法などについて歯科医療従業者の目線で考えてみました。
入れ歯安定剤の目的は2つあります。1つは、名前の通り入れ歯がグラグラ・ガタガタと動くことを防ぎ、入れ歯を安定させることです。2つ目は、歯茎を入れ歯との摩擦から守る働きです。
それぞれの目的に合わせて選べるようにと、入れ歯安定剤にもいくつかの種類があります。一つ目は、『義歯粘着剤』と呼ばれるものです。クリームタイプ・パウダータイプ・シートタイプなどがあり、それぞれメリット・デメリットがあります。入れ歯のグラつきを防ぐことが目的であるため、粘着性が強いです。
もう一つは『ホームリライナー』と呼ばれるクッション性の強いものです。これを塗ることでゴム状のクッションの役割を果たし、顎と入れ歯を固定しながらも、入れ歯による歯茎の傷つきを抑える働きがあります。
アルコールが含まれていることが多いのは、後者のホームリライナーです。ホームリライナーにはチューイングガムに含まれることの多い、樹脂が配合されています。この樹脂をジェル状の形に溶かし形状を維持させるための溶剤としてアルコールが含まれているのです。
一方で、義歯粘着剤にはアルコールやエタノールは含まれていない製品も多く見られます。
アルコールが成分として含まれている製品に関しては、商品パッケージや公式ホームページなどで、使用上の注意書きが為されています。事件の影響もあり、使用によって呼気からアルコール反応が出る可能性がある旨が明記されているものがほとんどで、運転をする際には使用を避けるようにと書いてあるものもあります。
テレビのCMや広告などで多く目にする入れ歯安定剤ですが、入れ歯の人は必ず使わなければならない・入れ歯には入れ歯安定剤は必須ということは全くありません。入れ歯安定剤を使わなくても口にフィットする入れ歯を作ることはできるでしょう。
どうしても安定せずに入れ歯安定剤を使うという場合は、入れ歯を作成した医師の指導の元で使うことが好ましいです。上述したように、入れ歯安定剤にも様々な形状があります。それぞれ含まれている成分・効果・向いている入れ歯の素材は異なりますので、自分の入れ歯・自分の症状にあった入れ歯安定剤を使用することが大切なのです。
そのためにも、「入れ歯が合わない・使用中に痛みが出る」などの症状が出た場合には、自身でドラックストアなどにて入れ歯安定剤を購入して対処するのではなく、歯科医師に相談して指示を仰ぐことが推奨されます。医師と相談の元で使用するか、独断で使用するのであれば歯科医院を受診するまで、あくまでも短期間の応急処置としての使い方が望ましく、毎日はみ出るくらい大量に使用する必要はありません。
『入れ歯安定剤を使わなくても良い入れ歯にしよう』という一つの考えがあります。しっかりと自分の口に合った入れ歯であれば、安定剤を使わなくても食事や会話をすることができます。総入れ歯の場合は、入れ歯を支える歯がありませんので、入れ歯の床の部分を歯茎にフィットするように形成することでパカパカとはずれてしまうことを予防します。しかし、歯茎は少しずつ痩せていき形が変化していくため、定期的なメンテナンスを行い常に自分の口にピッタリな状態にしておくことが大切なのです。
しかし一度入れ歯が完成してしまうと、割れる・欠けるなど大きな破損が起こるまで長期間メンテナンスなしに使用してしまう方が大半といわれています。そのような方は、入れ歯が合わなくなると市販の入れ歯安定剤を大量に使いながら生活しているのです。
近年では、総入れ歯の方向けのミニインプラントといった入れ歯を固定するための治療も広がりを見せています。入れ歯安定剤を使い飲酒運転を疑われるリスクを背負うのではなく、入れ歯そのものを入れ歯安定剤なしで使用できる方法を検討するのも良いのではないでしょうか?
とはいっても、入れ歯安定剤を使って運転をしなければならないこともあるでしょう。入れ歯安定剤を使ってから車を運転する時には、以下の注意点を守って使用するようにしてください。
・使用量をなるべく少量に抑える
今回の裁判のケースでは、指で拭わなくてはならないほど大量に、入れ歯安定剤を使っていたとされています。そのため、通常の使い方をしていた場合よりもアルコールが多く呼気に含まれてしまったと考えられています。
運転前にアルコール入りの入れ歯安定剤を使う場合には、できるだけ少量に抑えておきましょう。
・使用後すぐに運転するのではなく1時間はあける
静岡地検が行った実験によると、アルコールを成分として含む入れ歯安定剤を大量に使用した入れ歯を装着して約30分後の呼気検査では0.15gと違反になる量のアルコールが検知されているのです。そのため、装着してからすぐに車を運転し始めるのではなく、ある程度の時間を置いてから運転することで呼気への影響も少なくなるのではないかと考えられます。
・アルコールフリーの入れ歯安定剤やテープタイプの安定剤を使ってみる
運転をする予定がある場合だけは、アルコールが含まれていない安定剤を使うという方も多いようです。テープタイプやアルコール以外の成分を溶剤として使用している商品もいくつか販売されています。
また今回のニュースを機に、アルコールを成分として含まない商品の開発がさらに進んでいくものと考えられるでしょう。
入れ歯安定剤を使っている人にとって、今回のケースは人ごとではないニュースであったことでしょう。入れ歯安定剤を使っていただけで飲酒をしていなかったとしても、呼気からアルコール反応が出た以上は、事情聴取などが行われすぐには運転に戻ることはできなくなってしまうでしょう。使用方法には注意を払い、運転の頻度が高い場合などには入れ歯そのものを見直すことをおススメします。
口コミ数20,159件